脳の神経細胞は、毎日10万個死滅する?
人体の細胞数は60兆個といわれる。そのうちで脳の神経細胞は、1000億個ぐらいあり、大脳だけで見るとおおよそ150億個である。
ところが、60兆個の人体細胞はあっても、そのうち毎日3000~4000億が死滅し、同じ分量の細胞が再生されている。死滅と再生の数には驚くばかりだ。
この細胞の死滅には2種類ある。1つは”ネクローシス”と呼ばれる、たとえば火傷やケガなどによる細胞死。もう1つは、〃アポトーシス”という遺伝子によって制御されている細胞死である。「自殺する細胞」ともいわれるアポトーシスは、血液細胞、リンパ球、皮膚細胞、内臓の細胞など、古くなって傷ついたり、劣化して老化したあらゆる細胞を元気な細胞に置き換える仕組みなのだ。だからこそ、生命は形を変えずに維持されていくのである。
これらの細胞は、再生系細胞と呼ばれるが、それとは別に非再生系細胞と呼ばれる細胞がある。脳や心臓の機能をつかさどる神経細胞、心筋細胞である。
細胞交替を起こしてしまうと、記憶は消え、心臓の拍動が途絶えてしまうために、アポトーシス機能をもっていないと思われている細胞だ。
しかし、非再生系の細胞である脳細胞も、成人では1日約10万個死んでいるという。再生されない細胞だから、脳細胞の数はどんどん滅る。
仮に、20歳から60歳の40年間、毎日10万個死滅しているとすれば、合計で15億個消えているわけで心配になるような数だが、よく計算すると、この数字は1.5パーセントに過ぎない。
つまり、脳の機能を損ねるような心配は、まったくないということらしい。
また、大脳は、ニューロンという神経細胞の本体と、そこから出ている樹状突起から伸びた軸索(長い神経細胞)とで構成されていて、軸索の尖端は何本かに枝分かれしている。尖端はほかのニューロンや樹状突起と接触しており、その部分をシナプスという。ニューロンどうしの情報交換は、シナプスを通して行なわれる。
こういうシステムをもっているのが大脳の神経細胞で、非再生系である。
ところが、大脳生理学の進展は新しい仮説を提唱しはじめた。分裂能力を有する神経幹細胞が、大人の脳にもあるという。
とくに”海馬”という記憶や学習などの高次機能をもつ神経細胞に、この神経幹細胞が見つかったのだそうだ。
神経幹細胞が、古い記憶を保持する神経細胞を消し、新しい細胞に置き換えていると思われている。では、昔の記憶はどうなってしまうのか。海馬の古くなった神経細胞を丸ごと消去する代わりに、新しい神経細胞に必要な情報をコピーしていると推測されているらしい。
人体という生命体は、まだまだブラックボックスだ。研究者は、複雑なジグソーパズルのヒースをはめ合わす作業を繰り返すように研究を重ねて、その神秘に少しでも近づこうとしている。その結果、新たな発見と仮説が生まれてくるのである。
脳の神経細胞は、毎日10万個死滅する?

