脳は、人間を動かす司令塔である。それだけに脳の、ある部分が壊れると、手足が動かない、記憶できない、話せない、読めない、などの重大な障害が発生する。

いろいろな細胞の集まった集合体が人間だが、ただ、それだけではパソコンのハードウェアと一緒で動かない。そこで、神経系や内分泌系、免疫系などのソフトウェアを織り交ぜてバージョンアップしている。

これらは細胞外情報伝達系と呼ぱれるが、個々に神経伝達物質、各種ホルモン、サイトカインなどを仲介役として、悄報を伝達しあっている。こうした物質を、情報伝達物質というが、ここが崩れるとさまざまな不調を訴えるようになる。

たとえば、内分泌系はホルモンを分泌して体の調子を整える作用をもつが、この分泌を指令するのは視床下部である。内分泌系は神経系と連動しているが、この2つの系を合わせて神経内分泌系と呼ぶ。

免疫系にしても、勝手に動き回っているわけではない。内分泌系や神経系とも密接な連絡を取り合っている。そして、最近、判明したのは、免疫系が中枢神経に対して種々の作用を及ぼしていることだという。

田沼さんの言葉を借りれば、神経系、内分泌系、免疫系の連動は”スーパーシステム”で、その機能によって身体全体の恒常性(ホメオスタシス)を保持しているという。

そこで、このホメオスタシス機能が、身長の伸びに関して破壊されると、どうなるか。

身長が伸びないほうに振れると低身長症になる。原因には、内分泌異常、骨系統疾患、栄養不足、愛情遮断性低身長症などの原因が考えられる。徳川綱吉に見られるように、内分泌異状による「成長ホルモン分泌不全性低身長症」が典型的であろう。

同じ内分泌異状でも、成長ホルモン分泌過多であれば、背が異状に伸びる。成長期で成長ホルモン分泌過剰が生じれば「巨人症」となり、成長期の終焉後にホルモン異状が起これば「先端巨大症」、いわゆる末端肥大症である。

巨人症の初期症状は、鼻や口唇、舌や手足が大きくなっていく。汗も出やすくなり、頭痛、疲労感、多毛などの変化が生じる。そのまま進行すると、男子では性欲が滅退し、女子は生理が止まる。アゴが伸び、眉根の辺りがせり出て、手足の骨は異状に伸長する。しかも、しばしば2メートルを超す身長になる。

低身長症、巨人症のどちらにしろ、視床下部からの成長ホルモン分泌異状である。 

厄介なストレスが、伸長とどのように関係しているのかというと、次のようになる。

視床下部とは、「感情・情動・本能」の中枢であり、「摂食・満腹」中枢をもち、「ホルモン・免疫系統」をコントロールし、さらに体温調節や性行動など、人が生きていくための「自律神経」の最高中枢機関となる。

視床下部は、生命維持にとっての最高の精密機械であり、それだけに外部からの刺激に大きく反応するのである。

そうした特質をもつため、強い精神的ストレスを受けると、視床下部の機能に異変が起こり、成長ホルモン分泌刺激ホルモンが不活性化する。それは、成長ホルモンが出にくくなることであり、結果的に伸長のパワーをダウンさせることでもある。女の子が、失恋のショックで生理が止まってしまう現象に、原理が似ているといえなくもない。

前項の事例だけではなく、ストレスによる身長がストップするケースは、現実にたくさんある。

筆者は、これまで1000例を越す子どもの背についての相談や伸長医療を展開してきたが、ストレスを原因とする伸長阻害がかなりのパーセンテージで見られるのである。

たとえば、いつもおどおどして自信なさそうな、中学生になったばかりの男の子がいた。背も低く痩せている子だった。母親に連れてこられたが、自分では話そうとしない。しかし、母親の話だけでは本当のところは不明である。

その子の口が開くまで、じっくりと待って、ようやく話を聞くことができたが、どうやら父親が怖いらしい。暴力を振るうことはないようだが、自分は有名国立大学を出ているため、息子にもそうさせたくて勉強を強いるのだ。

そこそこの点をとっても褒められずに、マイナスのことばかり言い出す。それも感情的で、子どもの言い分など聞きはしない。

さて、脳はまだまだわからないことだらけなのだが、それでも視床下部は成長ホルモンの分泌をつかさどっているだけに、身長の伸びとは密接な関係がある。

これまで見てきたように、身長の伸びを左右する要素として、”栄養””成長ホルモン” ”性腺ホルモン””甲状腺モルモン”などの物質に、”思春期発来””睡眠不足””ストレス”という体質や生活習慣、精神的状況が大きく影響していることを説明してきた。

ちなみに、性腺ホルモンとは、ステロイドホルモンの1つである。精巣や卵巣で生成され、アンドロゲン(テストステロンが代表的物質)やエストロゲン、黄体ホルモンなどのことをいい、思春期発来に強く関係している。

甲状腺ホルモンは、その名のとおりに甲状腺から分泌される。アミノ酸誘導体ホルモンだが、誘導体とは分子の形が少し変わったもののことである。

そこで、こうしたホルモンや栄養物質の摂取、伸長の年平均値から思春期発来の時期、睡眠不足が背の伸びに影響をもつことは理解されたことと思う。

人体の細胞数は60兆個といわれる。そのうちで脳の神経細胞は、1000億個ぐらいあり、大脳だけで見るとおおよそ150億個である。

ところが、60兆個の人体細胞はあっても、そのうち毎日3000~4000億が死滅し、同じ分量の細胞が再生されている。死滅と再生の数には驚くばかりだ。

この細胞の死滅には2種類ある。1つは”ネクローシス”と呼ばれる、たとえば火傷やケガなどによる細胞死。もう1つは、〃アポトーシス”という遺伝子によって制御されている細胞死である。「自殺する細胞」ともいわれるアポトーシスは、血液細胞、リンパ球、皮膚細胞、内臓の細胞など、古くなって傷ついたり、劣化して老化したあらゆる細胞を元気な細胞に置き換える仕組みなのだ。だからこそ、生命は形を変えずに維持されていくのである。

これらの細胞は、再生系細胞と呼ばれるが、それとは別に非再生系細胞と呼ばれる細胞がある。脳や心臓の機能をつかさどる神経細胞、心筋細胞である。

細胞交替を起こしてしまうと、記憶は消え、心臓の拍動が途絶えてしまうために、アポトーシス機能をもっていないと思われている細胞だ。

しかし、非再生系の細胞である脳細胞も、成人では1日約10万個死んでいるという。再生されない細胞だから、脳細胞の数はどんどん滅る。

仮に、20歳から60歳の40年間、毎日10万個死滅しているとすれば、合計で15億個消えているわけで心配になるような数だが、よく計算すると、この数字は1.5パーセントに過ぎない。